12.がんばってがんばって

【I love you,You like me 】




好きですと告げたら、嫌いじゃないと返される。
・・・でも、これってそもそもどうなのさ?







「好きです」



屋外のベンチに座る相手の前にわざわざ立ち塞がるようにして、一言一句はっきりと、明瞭な発音で告げる。
無様に声が震えないよう、両手を背中で組んで地面に足を踏ん張る姿勢はまるで、踏ん反り返る格好に見えなくはない。
愛を告げるには些かムードに欠ける状況ではあるものの、それでもこちらは真剣そのものだ。
そんなオレに向け、手にした本に目を落としたままの相手が言う。


「うん、嫌いじゃなーいよ?」



・・・眩暈を覚えるほど、同じ言葉。同じシチュエーション。
もう何度目になるともしれない同様の光景に、思わず項垂れそうになる。が、今更だろう。
だってオレはこれを全部わかった上でやっているんだから。
「だーかーらぁ、オレが望んでるのはそういうんじゃなくてですね!」
「仕方ないじゃない。実際アンタのこと、嫌いじゃないんだし」
本のページを新たに捲りながらしれっと告げられる。
その余裕ぶった態度といい、先程から一切こちらに向かない視線といい。いつものこととはいえ、苛立ちが湧いてくるのまでは抑えられない。
奥歯を噛み締めた所為で唇の端が下がるのを感じているところで、相手がぽつりと零す。
「けど、アンタも懲りないよねぇ。もう何度目だっけ?」
「これで十五度目です」
「いい加減、諦めようとは思わないんだ?」
「諦めが悪いのはオレの美点だと思ってます」
負けじと言い返せば、御挨拶だねぇ、と相手が喉奥を震わせるようにしてくつくつと笑う。それでもやっぱり、本から視線は上がらない。
暗にしつこいと言いたいのかもしれないが、気にしない。こちらもそんなことには慣れている。







オレが相手に初めて告白したのは少し前のことだ。
・・・但し、最初相手に対して抱いていたのは純粋な憧れのみだった、と付け加えておく。
なにせオレが幼い頃から相手の名は噂等でよく耳にしていたから。
半ば伝説として語られるような偉業を次々と成し遂げる、同世代の相手に対する憧憬と、ある種の羨望。
オレと同じ年頃の人間ならば、少なからずそんな気持ちを抱いたに違いない。長い間、相手のことを自分とは住む世界の違う雲上人だと思い込んでいたくらいなんだ。
けれど、相手がナルトの上忍師になった。
ナルトを通じて関わりを持つようになって、その為人を知る内にいつしか惹かれていた。よくある話と一笑に伏せないのは、オレがその当事者で、しかも相手も自分も同じ性であるという事実に尽きる。
ただ、その事実を差し引いても生身の相手は大層魅力的だった。
上に立つ者にありがちな傲岸不遜な態は見られず、オレのような階級が下の人間にもあくまで物腰は柔らかい。その上、聞き上手で話題も豊富。また一度だけ目にしたことのある素顔は、流布する噂と違わず美丈夫だった。
才色兼備とは正にこの人のことを言うのだろう、と付き合いの浅いオレでも確信出来るほど。兎角、人を惹き付ける魅力に溢れた人だったんだ。
そんな相手にオレが惹かれたのは自然な流れだったかもしれない。分不相応だとわかっていながらも、想いが傾いていくのを止められなかった。
しかしその内、膨らみ過ぎた自分の想いに気付いた。
何をしていてもふと相手のことを考え、そちらに思考が流れる。このままでは抱え続ける想いの前に身動きが取れず、二進も三進もいかなくなるのではないか。
そう思い詰めたオレは、玉砕覚悟で相手に告白をした。
相手は異性、同性問わず人気がある。そして過去付き合ってきた相手は皆見目麗しかったのだと聞き及んでもいる。
そんな華麗な遍歴に名を連ねた相手と同性でもっさりした自分が同じ土俵に立てるとは思わなかったが、抱える想いをふっ切るには必要な行為だと思ったんだ。
なのに、好きです、と告げたら返事はたった一言。



「嫌いじゃなーいよ」



・・・アカデミー生が『イルカ先生好き!』って告げているのとは全く違う意味なのに。もしかして言い方が悪かったのか、と改めて色恋込みの好きだと告げてみても、答えは変わらず。
「うん、だから嫌いじゃなーいよ?」
ていうか、色恋込みの好きだったら答えは付き合うか付き合わないかの二択じゃないのか。
面食らうオレにも、相手はにこにこと笑うばかりだった。
煙に巻こうとしているのか、はたまた未だ冗談だと思っているのか。
どうにも掴めず、オレはおずおずと相手に訊ねていた。
「じゃあ、オレのこと好きですか?その、付き合ってもいいとかそういう話で」
「うーん、どうだろうねぇ。まだ里の仲間ってレベルの気持ちしか抱けないんだけど」
「それって、オレに今後の見込みはあるんですか?」
「さあ?」
疑問にあっさりと疑問の形で返され、オレはそのまま項垂れたくなった。
好きでもなく嫌いでもない。但し、今後の可能性は未知数。
そして二進も三進もいかない、身動きが取れない状態は変わらず継続という事実。
・・・知らなかっただけで、この人は途轍もなく性質の悪い人間なのかもしれない。
けれど、それでも期待をしたくなる。
だって、オレはこの人が好きなんだから。
それから、忙しい相手が里に居る時を狙って身柄を探し出し、面と向かって好きだと告げるようになった。
少しでも相手に自分のことを意識させたい。相手の視界に入りたい。あわよくば、相手に振り向いて欲しい。
ていうか、絶対振り向かせてみせる!
・・・そんな強い意気込みも、未だ空回りしているんだけれど。
大体にして、相手がオレの行為を挨拶の延長線上として捉えている節があるくらいだ。相手から同じ想いを返して貰える時が来るのかどうかすら現時点では曖昧だった。
でも、諦めるつもりはない。
だってオレは諦めってヤツが人一倍悪いんだ。あの時、ばっさりと斬って捨てなかった相手も悪い、ってことにさせて貰う。
「オレ、相当しつこいですから覚悟しておいてくださいね」
「ふーん、いいんじゃないの?美点なんでしょ、それ」
挑発的に宣言したオレにも、相手は相変らず本から目を上げないまま涼しい顔で言う。
妙に余裕ぶった態度が悔しい。
けれど、そのお陰で存外負けず嫌いなオレの心にも火が点いた。
―――――・・やってやろうじゃねぇか。
嫌いじゃない、が好き、に変わるまで。
なにせこちとら、アンタを愛しちゃってるんだからな!





「いつか絶対、アンタに好きって言わせてみせますから」





決意表明のつもりで告げたら、相手がここに来て初めて本から顔を上げた。
その驚いたような、呆れ返ったような、それでいてどこか愉快そうにも見える様子でそっと目を細めて、一言。





「じゃ、頑張ってみて?」















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