13.きれいな

【なきむしなひと 】





せんせいは、よく泣く。
悲しいことだけじゃなく、嬉しいことやホントにちょっとしたことでも、ポロポロボロボロ、涙を零す。
もう、立派なオトナなのに。
『先生』って呼ばれてるひとなのに。
でもそれを可笑しいと思わないのは、きっとせんせいの涙がきれいだから。
とてもとても、きれいだから。
それがどんな涙だって、オレは見惚れてしまうんだけど。




せんせいは、オレと出会ってなきむしになった、と言った。
「アンタが、あまりにもブキヨウでヘタクソだから、こっちがガマン出来なくなるんですよ」
なんて言うから。
「へへ、じゃあオレがせんせいを泣かせてるんだね」
そう言って笑ったら、涙の代わりに拳が飛んできた。
それを避けたら、悔しそうな顔で睨まれたんだけど。
だって、あの勢いで殴られたら痛そうだったんだもん。
せんせいって、なきむしなワリに、手は早いんだよね。




でもね、せんせい。
オレが笑ったのは、嬉しかったからだよ。
せんせいが、オレの為に泣いてくれるって思ったら。
あの、きれいな涙がオレの為にだって思ったら。
嬉しくて嬉しくて、どうしようもなかったんだ。
・・・・オレは、泣けないから。
今まで毎日を生き延びるのに精一杯で、余分なことを考えてる暇がなかったっていうのもあるんだ。
たぶんね、泣きたいことも、ホントは泣かなくちゃいけなかったこともたくさんあったんだろうけど、今は少しも思い出せないんだよ。
それにね、せんせい。
オレの中身は空っぽなんだって。
だってホラ、みんな言ってるじゃない。
オレは血も涙もない人間だ、って。
空っぽだから、オレは泣けないのかな。







「っ、アンタはどうしてそう・・・・!」







途切れてしまった声。
怒ったような、でもどこか哀しそうな表情。
そして、頬を伝うきれいな雫。
オレはまたせんせいを泣かせてしまったらしい。







なきむしな、せんせい。
オレの為に泣いてくれる、せんせい。
泣けないオレの代わりに泣いてくれている、なんて思うのはおこがましいかもだけど。
もしも、空っぽなオレの中を、あなたの涙で満たしたら。
そしたら、オレも泣けるようになるのかなぁ。








そう言ったら、「バカ」と零して、せんせいは更に泣いた。









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