20.しまった!

【べりぃ★ちぇりぃ☆ベイベ★】




部屋でカカシ先生と一緒にテレビを観ていたら、いきなり畳の上に押し倒された。
突然のことに碌に受身も取れずオレは後頭部を強かに打ち付ける。
忍としてあるまじきだとは思うが、自分のアパートで、しかも恋人からいきなり攻撃(といっていいものかどうかは悩むところ)を食らうなんて予想する人間は居ないだろう。
しかしながら大きく顔を顰めるオレにも上から圧し掛かるカカシ先生は少しも頓着した様子がない。それどころか。




「イルカせんせい・・・」




少し掠れたような、艶っぽい声と同様の視線がオレへと向いている。
・・・こうなれば鈍いオレでも流石に気付く。
これってアレだよな、どう考えてもそういう状況っていうか。
でもその直前まで今の状況と全く関係のない話をしていた筈なのに。


そろそろ五月病のシーズンですね、とか。
五月病には入浴が良いらしいですよ、とか。
なら今度の休みは温泉行きましょうよ、とか。


これらの話のどの辺りがカカシ先生のスイッチをフルスロットルにしてしまったのか、正直教えを乞いたいくらいだった。
そんなオレの耳には、付けっぱなしのテレビから『温室栽培の早出しさくらんぼを狩るならココ!』という観光農園の話題が届いていた。
ああいいな、さくらんぼ。でも温室栽培って露地物と比べてどうなんだろ。やっぱりこう、味とか香りが違ったりするのかな。
などと必死に余所事を考えてみる一方で、先程から心臓はこれっぽちの余裕もなくばくばくと激しく脈打っていた。
だってさ、だってさ!この人下から見上げても完膚無きまでに秀麗な顔してるんだぞ・・・!!!
付き合い始めて三カ月も経つっていうのに、オレは未だにうっかり見惚れちまうほどなんだ。自分が面食いだと思ったことはなかったけど、カカシ先生と付き合い始めてオレって案外そうなのかも、なんて自覚まで芽生えてきたりもして。
そんな人がどう見たって狙ってるというか、もうまんま雄って顔をしていれば、そりゃ堪るも堪らないもないだろう。
三カ月の間に、キスはおろか手を握ることすらなかった、今時のアカデミー生にも鼻で笑われるだろコレ!?といった感じの清い交際を続けていたオレたちにもついにこの時が・・・。
なんて思えば柄にもなく緊張してしまうものらしい。オレだってそれなりに経験はあるけど、好きな人相手ってのはまた別物なんだろう。
それにオレが今迄付き合ってきたのは皆女ばかり。男相手なんて、若い頃任務中に仰せつかった伽くらいのものなんだ。
まあでも、カカシ先生に任せれば大丈夫かなぁ。かなりスゴイって話だし。
だからこそオレはどうにか気楽に構えようと努めていたんだ。
けれどこの後、カカシ先生から告げられた言葉に大々々々衝撃を受けることになる。




「オレ、はじめてなんです」




思わず「へ?」と間の抜けた声を上げたのは致仕方のないことだと思いたい。
だってはじめてって。そんな似つかわしくない、というより今の状況では聞きたくなかった単語がカカシ先生の口から出るなんて。
でも待てよ。もしかしたら男同士がはじめて、ってことかもしれないじゃないか。そうだ、そうに違いない。
そのように無理矢理自分を納得させて、オレはおずおずと口を開く。
「・・・男同士が、ってことですよね?」
「いいえ、女とも経験がないです」
いやに得意気な様子で胸を張ってみせるカカシ先生に、オレは今度こそ絶句した。ていうか、そこは胸を張るところじゃないだろうよ!
せめてちみっとくらいは萎縮するとか悄気てみせようぜオイ、と言いたいことは頭の中をぐるぐると回っているのにも関わらず、一向に口まで出てこない。
だってさ、カカシ先生がチェリーボーイなんて信じられない、というより信じたくないじゃないか。
最早ボーイと呼べる年頃ではないのも引っ掛かるが、それより何より里内で実しやかに流布している噂や伝説の数々。
千人斬りだとか性豪だとか、カカシ先生の手に掛れば年齢性別問わずゴートゥーヘブンなんて、アレは一体全体どこから湧いて出た話なんだろうか。ああ、それにしてもがっかりだ。
そりゃ、あんな噂があったからオレもちょっとは期待してたんだよ?
どうせならヘブンってヤツを拝んでみたかったさ、今更だけど。
・・・ただ、噂に聞いていたカカシ先生の姿と現物とでは全然様子が違うなと思ったことはあるんだよな。
友人として付き合っていた頃も、そういった事柄とは無縁な空気を纏っていたというか。最初はそれをストイックで恰好良い!なんてミーハーに思ってたモンだっけ。
けど、付き合い始めてからもちっとも手を出してこなくって。
もしかしてオレから積極的にいかないといけないのか?オレの方が立場的に低いのにいいんだろうか、なんて思い悩んでいたくらい。
でもそれ全部はじめての所為、だったんだな。




「オレ、はじめては絶対好きな人とって決めてたんです」




己の思考にどっぷり浸っていたオレはこの言葉に現実へと戻される。
改めて見上げたカカシ先生は白皙の頬を染めて、どこか恥じらうようにはにかんでみせた。それがまた、オレの目にはなんというか・・・可愛く見えちゃったんだよな、ものっすごく。
三十年間、本意か不本意かはわからないけど純潔を守り通してきたカカシ先生が、そういうことをしてもいいと思えるほどオレが好き。
なんて考えてしまったのもいけない。
気持ちが少々重いような気がしないでもないが、でもオレだってカカシ先生が好きだからやっぱり嬉しい。
ならばこの期待に応えなきゃ、男が廃っちまうってモンだ。
それにカカシ先生の階級や背鰭尾鰭のついた噂のお陰でずっと受けることばかり考えてたけど、別にそうしなきゃいけないと決まってる訳じゃないよな。
経験値的なものから言ってもオレの方が上だし、まっさらの相手をオレ好みにイチから育て上げるっていうのもアリなんじゃなかろうか。
マイフェアチェリー、もしくは万葉の昔から男の夢として語られるある意味壮大な浪漫が叶っちゃうのか、カカシ先生と。
そう考えれば気持ちが一気に前向きになった。
単純だと笑いたければ笑うがいい・・・男なんてひと皮剥けば皆浪漫主義のオオカミなのさ!
決めました。
不肖うみのイルカ、僭越ながらカカシ先生のお初をいただこうと思います。そしてゆくゆくはオレ好みに育て上げたい所存であります。
目指すところは昼淑女の夜娼婦辺りでどうだろう。
・・・くうっ、それイイ!最高じゃないか!!
オレが責任を持って手取り足取りついでに腰も取って指導しますから一緒に頑張りましょうねカカシ先生!!!
固い決意と希望に満ちるオレは、下からカカシ先生の胸倉を掴むと、そのまま勢いを付けて身体を真横に投げ飛ばしていた。
どすんと鈍い音を立てて畳へと着地したところに覆い被されば、カカシ先生は目を白黒させながらオレを見上げてくる。
「あの、イルカせんせいが上なんですか」
「ええ、そのつもりですけど。だってカカシ先生ははじめてでしょう?」
しれっと告げればカカシ先生の顔が一瞬間盛大に歪んだ。
けれどその直後には自信に満ち溢れた、なんだそんなこと、と言わんばかりの顔付きになった。
えっ、もしかして何か秘密のスゴ技でも隠してたのか?




「問題ありません。だってオレ、イチャパラで勉強済みですから」




ふふんと鼻で笑うような素振りまで見せられて、オレは二の句が継げないでいた。いやいや、イチャパラでは勉強にならないでしょうよ・・・男の夢や妄想を形にした、突っ込まれて只管イクとか死ぬとか言ってるような本。
カカシ先生のバイブルらしいけど、現実にはあんなこと二〇〇パーセント有り得ませんから。そもそもアレって男女間前提だしさ。
「それに、愛があれば大丈夫だって聞いてます」
「誰から?」
「アイコです」
「・・・誰ですか、それ」
「イチャパラのヒロインです」
結局イチャパラかよ!
チェリーの期間が長かったからってイチャパラに毒され過ぎだろ!?
それより何より、根拠がないのにどこから出てくるんだその自信は!
大体、そういうことをしようと思ったら綺麗事だけじゃ無理だってーの!
対女であってもはじめては大変なんだぞ。それが男同士ともなれば、一歩間違うと阿鼻叫喚というかスプラッタというか、兎に角きちんとした知識がないと悲惨なことになるんだぞ。
なんて、内心で毒付きながらもオレはカカシ先生と向かい合う。
ここで引くこと即ちオレの負けを意味するんだ。
うう、負けたくねぇ・・・負けたら多分阿鼻叫喚のスプラッタ確定だからな・・・。
「でもねカカシ先生、細かいやり方とか知らないでしょう?それに男同士って結構大変なんですよ、いろいろ事前に準備が必要だし」
「イヤです!オレ、イルカせんせいとオトナの階段を上りたいんです!!!」
どれほどの正論も、カカシ先生理論の前では完全に上滑りだった。
ていうかオトナの階段って、カカシ先生もう三十路じゃねーか。
カカシ先生、アナタをオトナと呼ばずして一体誰をそう呼べと?
「それにオレ、経験はなくてもスタミナはあります!」
いやいやそれ、自信満々に言うところじゃないよね。
寧ろ、経験テクなしのスタミナありってかなりイヤなんですけど。
どうしよう、カカシ先生が素直に受身に回ってくれる感じがちっともしない。でも、先程までの話を聞いてたらオレが受身っていう選択肢は絶対にない。死んでも御免だ。
考えてもみてほしい、チェリーの上に知識といえばイチャパラのみ、なのに自信だけは無駄に過剰、っていう偏り具合だぞ。
きっと終わった後は血みどろで下手すると虫の息かもしれないんだ。
それがわかっていて素直にケツを差し出せるような無償の愛ないし盲目的犠牲精神を生憎オレは持ち合わせていない。
だってほら、誰でも自分って・・・可愛いだろ?
「せんせい、オレがんばりますから!ね、お願い!!!」
お願いって言われても。それにちっともがんばらなくていいんですよ、オレに全てを任せてくれたらそれで。
いっそ、このまま強引に既成事実でも作っちゃった方がいいのかな。
などと後ろ暗いことを考えつつ、視線をカカシ先生の下肢へと向けたところでふと視界に映り込んだもの。
・・・なんでこの状況で臨戦態勢になってるんだとか言いたいことは様々あるけど、それ以前に。
カカシ先生、アナタ実は随分御立派なものをお持ちだったりするんじゃございませんか・・・?
形といい膨らみといい、布の下からでもその存在感をしっかり感じ取れるなんてよっぽどではないだろうか。
オレは視線が縫い止められでもしたようにそこから目を逸らすことが叶わない。この時点で既に男として負けている気がするのはどうしてだろう。
でも待てよ、これは布越しだから実際より大きく見えている可能性もあるよな。案外、目の錯覚で実物は然程でもないかもしれないし。
そうだ、きっとそうに違いない!




「ンぎゃーッ?!な、な、なにすンですかぁ―――!!!」




色気もへったくれもない、悲鳴じみた叫びがカカシ先生から上がる。
大きさを確かめる為に膨らみを下から握り込むようにして掴んだのがお気に召さなかったらしい。
でもこれからもっとすごいことをやるってのに、と思いながらも、掌中に生じた感触にオレの顔は否応なく顰まった。
・・・やっぱりオレ、負けてるっぽいです。
いや、まったくもって完敗です。
何度か手の位置や触り方を変えて確かめた末の結論だから間違いない。仮にオレのを標準とするなら、どう考えても規格外。
なんつーか、既にコレ凶器の部類だろ。
こんなのを易々と受け入れられるようには出来てねぇぞ、オレの身体。というかそもそも無理。絶対不可能。
「い、いるかせんせぇ・・・!」
妙に上擦った声で名を呼ばれてカカシ先生を見遣る。
すると顔全体を満遍なく赤く染め、ついでに全身をぷるぷると震わせながらオレを睨んでいた。いつの間にか膨らみの実態を探っていた手ががっちりと拘束されている。
そして掌中に生じる、先程よりきつく張り詰めたものの当たる感触。どうやらオレの手の動きがイイ感じの刺激になっていたらしい。
えーと、コレはどうしたモンかなぁ・・・?
「責任取ってください!」
瞳を潤ませ、ふぅふぅと常より荒い息に混ぜて告げられる言葉は咎める意味合いより相手を煽る要素にしか変換されていかないものだ。
でも責任って、このままオレが上で取っちゃっていいの?
「ダメですっ!オレはイルカせんせいとシて、一人前の男になりたいんです!!下なんて有り得ません!!!」
きっぱりと言い切って食い下がってくるカカシ先生はちっとも可愛くない。
なので、オレは未だ掌中にあったものを改めて握り込んでみる。
途端に「アッ」と短く声を上げて、びくりと目前の身体が竦んだ。
またその声がやたらにエロかったので、オレはつい調子に乗って。
「もういいじゃないですか。口よか身体は余程正直ですよ?」
まるでイチャパラにでも出てきそうな台詞がすらすらと口に出る。
オレって結構ノリやすい性質らしい。
しかしながらこの言葉に、カカシ先生が只でさえ赤い顔の色を更に濃くして目を吊り上げる。
「―――っ、この・・・!」
掴まれた手をぐいと引かれたと思った次の瞬間、オレの視界は天井を向いていた。いつの間にかカカシ先生の上から畳に転げ落ちて仰向けに寝転んでいたのだ。
あまりの早技に茫然とするばかりのオレの上に、再びカカシ先生が圧し掛かってくる。しかも今度はマウントポジションという念の入れようだった。
しまった!やられたッ!?




「なんと言おうが、もう聞き入れませんからね」




先程とはうって変わって、にっこりと美しい笑みを向けられる。
美人の笑みって凄味があったりするモンだけど、カカシ先生も例外ではなかったらしい。
易々と許してしまった形勢逆転と共に、オレは危機感を覚えずにいられない。
このままではマズイ。どう考えても、マズイ。だって当たってるんだよ、オレが調子に乗って煽っちゃったものがしっかりと。
・・・うっわ、このままだと本当にヤられる!
オレは必死になって暴れたが、カカシ先生は余裕綽々で一向に堪えた様子がない。寧ろ、嫌味なくらい泰然とした顔でオレを見下ろしている。
勿論、体勢も状況も一向に変わらない。オレの抵抗なんてカカシ先生からすれば些事にしかならないんだろうか。
クソっ、こんな時ばっかり無駄に上忍の力を発揮しやがって!
「もう諦めたらどうですか、せんせ?大人しくしてた方が賢いですよ」
「残念ながらオレは諦めが悪いんです!」
「そうですか。でもきっと大丈夫ですよ、ほらアイコも言ってるじゃないですか、誰でも最初は一年生、どきどきするけどドンとイけ、って」
「知りませんよ、そんなこと!つかそれ、絶対何か間違ってるし!?」
「じゃあ試しに先っぽだけでいいから入れてみましょうよ、ね?」
「フザケンナ!大体、ね?じゃねぇよ、先っぽも何も無理だってーの!!」
「それにオレ、やさしくしますから」
「経験ねぇくせに出来もしないことをカンタンに言うなあああぁぁあ!」
大袈裟でもなんでもなく、命が懸っているのでオレも必死というか決死の思いです。不敬ってナニソレ美味しく食べられるの?です。
教師として現場で鍛えたオレの腹筋と地声とをフルに使って喚き散らしながら正直、もう萎えてくれたらいいのにとか本気で思っています。
そんなオレに、カカシ先生は眉を顰めながら「仕方ないですねぇ」と零すとゆったりとした仕草で長めの前髪を掻き上げてみせた。
・・・なんだかイヤな予感がする。
途轍もなくイヤなことが起こりそうな。
しかも、そんな予感ほどよく当たるんだよな、これが。
なんて他人事のように思うオレの前で、普段は閉じられているカカシ先生の左瞼が持ち上がった。
それに合わせて紅い瞳の虹彩がぐるぐると。




―――・・って、写輪眼発動?!




オイ、どんだけ切羽詰まってるんだこの人!
普通、恋人相手に使わねぇだろ、というかまず有事でもないのにホイホイ伝家の宝刀を使うんじゃねぇぇぇぇッ!!!
そう力一杯喚き散らしてやりたかったけど、まるで足の先から頭の天辺まで何かの型に嵌められているかのように全身が硬直して身動きひとつ叶わない。
ついでに喉元には上から押さえ付けられた時にも似た圧迫感がある所為で、上手く声を出せない。
己の意思に見事に反するこの状況に思いきり舌打ちしたいところだが、舌の根すら痺れたようになっていればそれも難しい。
ぎりぎりと歯がみするしか出来ないオレを、カカシ先生がにやにやと愉悦たっぷりに見下ろしている。どうにもムカつく顔だ。
ちくしょうやりやがったな、と気色ばんで思う一方、もうダメだオレこのままヤられるというか殺られる、と諦めとも悲壮とも取れない何かで胸が一杯にもなっている。この状況では到底逃げられないだろう。
思えば短い人生だった・・・としみじみ回顧しながら、目前にある勝ち誇った顔を見続けるのも癪なので自ら瞼を閉じる。
このままなるようになりやがれと半ばヤケに思っていたというのに、何故かそれからカカシ先生は一向に手を出してこなかった。
オレの上から身体は退いてはいないし、見下ろす視線も相変らず感じているというのに、だ。
ちっとも動きのないカカシ先生を訝しんでいればその内、どこからかぐすり、と鼻を啜る湿った音が耳に届いた。その後はぐすぐすと連続で鳴り続けている。




・・・なんだ一体、何が起こってるんだ?




恐る恐る瞼を持ち上げてみたところで、オレはそのまま大きく目を見開くことになる。
だってカカシ先生、泣いてるんだぜ?
アカデミーの子供みたいに唇をへの字にして、両目からぼろっぼろ涙を零して。先程まで明らかに優位に立ってた人がどうして泣く必要があるんだろう。
「どう、したんです、か?」
出難い声をどうにか絞り出して訊ねてみる。
この状況で律義に訊いちゃうオレもオレだと思うが、カカシ先生から返ってきた答えの内容もどっこいどっこいのものだった。
「や、やり方がわかりませんっ」
「・・・はいぃ?」
「はっ、はじめてだしっ、いっ、いろいろ考えてシュミレーションもしてたけどっ、い、いざそうなったら頭の中が真っ白になっちゃってっ」
「・・・・・・・・・」
バカだ。この人、ホンっトーにバカだ。
えぐえぐと泣きながら言い募る相手を見つめてオレが思ったことといえばこれに尽きる。動かないながら、全身から力が抜けるのも感じていた。
ここまでしといてなんだよソレ。ていうかその前にそれしきのことで泣いちゃう三十路男ってどうなんだ。ある意味ナルトよか意外性ナンバーワンだな、この人。
「オレっ、はじめては絶対にイルカせんせいとって決めてたんです!きっと後にも先にも、こんなに好きになれる人はいないからっ!だからどうしてもせんせいとシたいんですぅ〜!!!」
そう言ってますます涙に濡れた声を出すカカシ先生に、置かれた状況も忘れてオレはうっかりときめいてしまった。
いやほら、キミに胸キュン(死語)☆っていうの?
昔から言うじゃないか、出来の悪いバカな子ほど可愛いって。
たとえそれが三十路の、ちょっと、いやかなりおバカなチェリ男であったとしても。
未だオレの上でぐずぐずと鼻水を垂らさんばかりにやっているカカシ先生を見ていたら、先程までの思惑だとか遣り取りすら全てどうでもよくなってしまっていることに気付く。
結局オレだってこの人が好きなんだ。カカシ先生相手なら多少のことには目を瞑ってもいいか、と思うくらいには。
・・・まあこんなことを考えている時点でハラは決まったも同然だよな。
仕方ない、バカで可愛いこの人の為にひと肌脱いでやるか。
「もう、なかない、で、ください、よ」
「だってぇ・・・」
泣き腫らして真赤になった目でオレを見るカカシ先生はかなり情けなくて、いつも外で見せている上忍の威厳は微塵も感じられない。
でも、だからこそ何をされても憎めないんだろう。
これも惚れた弱みというヤツか。
「とりあえず、術、といて、くれません、か?」
「でも」
「もう、にげません、から」
「・・・本当に?」
「はい」
「ねえ、いいの?」
「ええ」
「本当の本当の本っ当に、いいの?」
いやにしつこく訊いてくる相手に笑い出したいような気持ちになりながら、オレは観念して告げる。
「もちろん、です。ふたりで、がんばって、みましょう」
「いるかせんせえ・・・!」
キラキラと眩いばかりに顔を輝かせたカカシ先生は、たとえ涙と鼻水でぐちゃぐちゃであってもオレの目には大層可愛らしく映った。
そんなカカシ先生が感極まったようにオレに抱き付いてくる。
ぐりぐりと胸元に額を押しつけられるのを甘んじて受けながら、オレも本当に大概だよなと動かない身体のまま諦め半分に思っていた。








かくしてオレは、カカシ先生が言うところのオトナの階段を上る為のアレコレを一緒にがんばってみた訳なんだが。
取り敢えずオレの口から言えることは、辛うじて血みどろのスプラッタは回避出来たことだけだ。途中、脳裏を走馬灯が目まぐるしく流れたり、死んだ両親が彼岸から手を振っているのが見えた時には本気でどうしようかと思ったけどさ・・・。
ただそれでも、ベッドでオレの横に寝転びながらしあわせそうに笑うカカシ先生を見ていたら、尋常ではない腰や関節、あらぬ部分の痛みなんかも忘れてシて良かったのかなと素直に思えてくる。
まあ、終わりよければ全て良し、って言うしな。
そんなことを考えていたオレに、隣から妙に浮かれた上機嫌な声が掛けられる。
「せんせいオレね、これからシたいことがたっくさんあるんです!」
そう言うと、カカシ先生はベッドサイドに置いてあったイチャパラを手に取った。
その中の付箋が付いたページをわざわざ開いて、身ぶり手ぶりを交えて説明される内容に耳を傾ける内、オレの眉間には自然と皺が寄っていた。
だってカカシ先生のチョイスが酷かったんだ。
青姦に緊縛に道具にと悉く可愛げのない、マニアックなものばかり。
一刻前までチェリーだったくせに、頭の中はとっくにイチャパラで毒されているなんて。
相当興奮した様子で熱く語りの入る相手を横目で眺めながら、少し早まったかと思わずにいられないオレなのでした。
でもやっぱり次は下になってもらうかなぁ・・・今後の為にもさ。













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