3.おやくそく

【あきらめのこいびと 】




あのひとがまた、約束を破った。



もう、何度目になるとも知れない。
その度にあのひとは、「ゴメン、今度埋め合わせするから」だとか「次は絶対!」などと言うのだけれど。
結局、それも守られたためしがない。
なんつっても、それに対するオレの答えが、『仕方ないですよ、気にしないで下さい』だから、な。
あのひとはいつも忙しいし、我侭なんて言えやしないのを知ってるけど。
・・・でも、本音を言わせてもらうなら、これに尽きる。



いい加減、約束のひとつも守れよバーカ!



大体、約束だって些細なものばかりなんだ。
因みに今回は、『一緒に桜を見に行きましょう』だった。


「任務帰りに里外れの森を通ったら、そこに自生してる桜がもう少しで満開になりそうでね。すごく綺麗だったから、どうしてもアンタと見たいって思ってさ」


そう言った癖に、今見に行ったとしても葉桜になっているに違いない。
そして、いつものようにオレに謝るのだろう。
ならば最初から約束なんてしなければ良いのに。
オレだって、約束するときはちょっぴり期待して、破られれば少なからずガッカリするんだ。
そこのところを、あのひとはちっともわかってない。
だからこそ懲りずに約束を持ち出すんだろうけど。
それに、約束を持ち出す時のあのひとはいつもとびきり嬉しそうで、そんな顔を目にすれば、どうせ守れないのにと思っても『いいですよ』なんて言っちゃうんだ、つい。
甘いよな、オレも。
でも、仕方ないよな。すきなんだから。
その口から出る、先に繋がる約束に安堵して、無意識に縋りつこうとしてしまうくらいに。
・・・溜息混じりの想いは、きっとあのひとに届くことはないけれど。







そうして今日もあのひとは、謝罪と次の約束とをオレに告げる。
それらをみんな受け取って、オレは諦め半分に笑うのだ。








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