33.みみうち

【楽園】




「ねえ、『楽園』って何処にあるか知ってる?」




ぽつりと零したカカシに、イルカは閉じかけた瞼をどうにか引き上げる。
同じベッドに居ても、眠気で霞んだ眼ではカカシの表情をはっきりと捉えることは難しい。それでも寝室の暗がりの中に浮かぶ、曖昧な輪郭をイルカは見つめようとする。
「らく、えん」
「うん、『楽園』・・・・ああ、せんせいもう眠い?」
本当は眠くて仕方がない。けれどイルカは態と「へいきです」と答える。
言葉の続きが気になったのと、単純にカカシの耳触りの良い声を聞いていたかったのもある。
ただ残念なことに、現と夢の狭間にふわふわと浮く頭では、その声もどこかふわふわと響いてしまっていたのだが。
「らくえん・・・どこに、あるんですか」
あまり深く考えることなく、思ったままを口にするイルカへ、ふわふわの声は内緒話でもするように耳元で囁く。
「『楽園』はね、ひとの傍にあるんだって」
「ひとの、そば」
「うん。『楽園』って場所じゃなくて、居場所の名前なんだって。誰かの中にある自分の居場所。だからこそ『楽園』は見付け難くて、ひとはそれを探したくなるんだって教わったの、なんか急に思い出しちゃった」
ふわふわと、それでもどこか楽しそうに響く声。
それにイルカは、誰にそんなことを教わったのか、や、どうして急にそんなことを言い出すのか、なんて聞きたいことを頭に浮かべては消した。
気になるのなら、聞けばいいと思う。
でも、聞きたくないような気もする。
聞かないのを、眠くて上手く考えが纏まらない所為にして、イルカは代わりに降って湧いた思いを口に出した。
「おれは『らくえん』をみつけられますか」






あなたのなかに






「え?」と聞き返す声が耳に届くのを待たずに、イルカは意識を手放していた。
その答えは最早、夢の中。









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