『ハーフビターな魔法』



自動人形のカカシには、たった一人のお友達がいました。
水族館にいる人魚のイルカです。
アカデミーからの帰り道、カカシはいつもイルカのいる水族館に寄ります。
大切な友達に会うために。



雪がちらちら降り始めたこの季節。
もうすぐ、大好きな人にチョコレートを贈る日がやってきます。
カカシは大好きなイルカに贈りたかったのです。
食べてもらえるかわからないけれど、小さなチョコレートをポケットに忍ばせていました。



「こんにちは、イルカ。」
カカシは小さな手のひらを水槽にあてました。
すると岩場の中から黒髪をたなびかせながら、一人の人魚があらわれました、彼がイルカです。
イルカは満面の笑みでカカシを迎えます。
「やあ、カカシ。」
イルカはカカシの手のひらに重ねるように水槽に手のひらをあてました。
「カカシの手のひらは暖かいね。」
その言葉にカカシは、はっと自分の手のひらを見つめました。
カカシは自動人形だから、冷たい機械の手のひらをしていたからです。
ぜんまい仕掛けの、ブリキとセルロイドの身体、サファイアとルビーの瞳。
どれをとっても、ぬくもりがあるとは思えませんでした。
カカシはぎゅっと唇を噛み締めると、胸が小さく痛むのを感じました。
「イルカ、ゴメンネ。」
聞こえないように呟きます。
「カカシ、今日、アカデミーで何を習ってきたの?」
イルカは無邪気に話しかけます。
「うん、もうすぐね、人間の風習で、好きな人にチョコレートを贈る日が近付いているんだって。だから、街のお菓子屋さんは混雑しているんだって。」
カカシは、はにかみながら、小さな手のひらをポケットに伸ばしました。
「ほら、イルカ、これがチョコレートだよ。君にあげたいけど、どうやったら、あげられるかな?水には溶けちゃうから・・・。」
「どんな味がするの?」
「甘いよ、とっても、甘い・・・。」
僕は食べたことが無いけど・・・、という言葉をカカシは飲み込みました。
「そうなんだ、甘いって、どんな味なんだろうね、オレは塩辛いものしか食べたことないんだよ。だって、海に住んでいるんだもの・・・。」
カカシはイルカの言葉を聞いてはっとしました。イルカは甘い味をしらなかったのです。
海はしょっぱいから・・・、海の味しか知らないのです。
カカシはセルロイドで出来た指にチョコレートをつけると、唇にそっとあてました。
そして、そのまま水槽に口付けました。


ガラス越しのキス。


「暖かいね、カカシの唇は、本当に暖かい・・・。」


僕ハ機械で出来テイルノニ、ドウシテ君ハ暖カイッテ言ウノダロウ?


「大好きだよ、イルカ、君のことが世界で一番好き。」
イルカは、カカシの言葉をうっとりしながら聞きました。


それは、バレンタインの魔法。
少し悲しくて、少し切なくて、でもとっても幸せな魔法。







kaiさんよりグリカとして頂いたSSを無理言ってGETしました(悦)!
初めて読んだとき、仔人魚ちゃんと仔人形の可愛らしさに一撃KOだったりしましたです。
僭越ながら、この設定をお借りしてこっそり小話書かせて頂きました。
イメージ崩れるのがイヤな方は絶対にご覧になられませんように。


Little Sweet

瞳の中の海



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