4.わがまま

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【The thing which you give to me / by K】




・・・大体、こんな答えがくるってことは最初から予想していたんだ。





「何でもいいですよ。カカシ先生にお任せします」




彼はにっこりと笑って、そう言った。
何でもいい。好きなようにして。お任せで。
既にパターン化した、決まり切った言葉が返ってくるとわかっていながらも、いつもオレは律義に訊いてしまう。
何か欲しいものはあるか、と。
今だって誕生日のプレゼントを訊いているのに、この答えだ。
そういうのが一番困る、って言っても、彼は少し困った顔で笑ってみせるばかりだった。
この人は普段から、あまり自己主張しない。恋人のオレにも常に一歩引いたような態度で向き合う。
何がしたくて、何を望んでいて、何が欲しくて、何を好むのか。
もっとそういうことを言って欲しいのに、ちっとも言ってくれない。
まるで独り相撲を取っているような気分になることだってある。
けれど、癖だから、と彼は言う。
人に彼是望むのは得意じゃない、とも。
過ごしてきた環境や元々の性格もあるんだろうけど、彼は忍らしく自らを律する術を心得ている。そして非常に理知的で大層控え目でもある。
でも、忍としては及第点でも恋人としては違うだろう。
オレは彼のよそよそしさに、時々無性に歯痒くなってしまうんだ。
もっとオレに我儘を言って甘えてくれたってちっとも構わないのに。
今だって彼の言葉に腹立たしいような、子供みたいに不貞腐れた心持ちになっている。
「何でもいいって言うなら、道端に転がってる石ころでも歯零れしたクナイでもその辺りに落ちてる煙草の吸殻でもいいの?」
「はい、カカシ先生がオレにあげたいと思うなら」
迷いなく言われて、思わずオレの方が口籠ってしまう。
・・・いや、流石にそんなのはあげないけどさ。
貰ったってちっともうれしかないだろうし。
この人が望むなら、無駄に重くてばかでっかいダイヤの指輪でも、ホテルのスイート貸し切ってたっかい酒揃えて酒池肉林でも、何だって出来るし、してあげたいのに。
でも多分彼はそれを望まない。表面上は感謝してみせても本心では決して喜んだりしないのはわかっているんだ。
こういう時、オレはいつも袋小路に迷い込んだ心持ちになる。
オレはただ、この人が本当に喜ぶものをあげたいだけなのに。
「あんたってさ、本当に欲がないよね?」
気付けば、少しばかり厭味っぽい調子の声になっていた。
そんなオレに、彼は僅かに首を傾げてみせる。
「欲がない、っていうのとは少し違う気がします。カカシ先生がオレにあげたいと思って、オレの為に選んでくれるものなら本当に何でもうれしいんですよ」
そう言って、彼はそっと目を細めるようにして笑う。何の屈託もない、やわらかなその表情。
不意打ちのようなそれに、ちょっと、否結構ドキっとさせられる。
この人は素でこんなことを仕出かすから、気が抜けない。
今だって思わず、すっげえすきデス!と口走りそうになってしまった。目の前にある肩を思いっきり掴んで力一杯揺さぶりながら、大声で。
・・・いや、やらないけどね?格好悪いし、恥ずかしいし。
ていうか、この人の前でオレが格好良かった試しなんてないんだけどさ。
がりがりと頭を掻きながら、湧いてくる照れ臭さを誤魔化すように考える。それでも顔に上がってくる熱までは誤魔化せそうになかった。
でも、あげたいもの、か。
彼がすきだっていう酒やラーメン・・・は、ありふれてるよな。誕生日なんだからもっと特別なものが良いだろう。
なら忍具・・・っていっても好みがあるし、彼のイメージとは違う気がする。
うーん、あげたいもの、って考えるから難しいのか、もしかして。
たとえば、彼に貰って欲しいもの、だったら何だろう。
貰って欲しいもの・・貰って欲しいものっていったら・・・。
やっぱりオレ自身、とか?
イチャパラなんかだと裸で全身にリボン巻いて、『プレゼントはあ・た・しv』みたいなシチュエーションがあるんだよな、普通に。


・・・・。

・・・・。


ばっかじゃないの、オレ・・・。


己の思考に、大きく項垂れそうになった。
想像しただけで萎えるっていうか、気持ち悪いことこの上ない。つか、実際にそんなことをされて引かない奴が居るなら見てみたい。
それより何より、オレがプレゼント、なんてどの面下げて言うんだ。こっ恥ずかし過ぎて、まず間違いなく彼の前で口に出せやしないだろ。
力の限り己を罵倒しているところで、くすくすと潜めた笑い声が届く。ちらりと見遣った彼は、オレを見てどこか楽しげに笑っている。
・・・頭の中身を覗かれている訳じゃないってのはわかってるけど、なんだかものすごく恥ずかしい。
ますます顔の熱が上がるのを感じているところで、不意に彼がぽつりと言う。
「・・・オレ、欲しいもの、あったかも」
「えっ、なに?」
「カカシ先生、オレの誕生日に休みを取っていましたよね」
唐突に訊かれて、オレは驚きながらも頷いていた。
彼の生まれた日を一緒に祝いたかったから、前々から必死に任務の調整を掛けて休みを捩じ込んでいたんだ。
「じゃあ、その一日をオレに全部ください」
告げられた意味を掴みあぐねているオレに、彼は少しだけ口早に言葉を次ぐ。
「いや、オレも休みなんです!だからその・・・もし良ければ、朝も昼も夜もずっと、二人きりで居させてくれませんか」
明らかな照れが混じる、はにかんだ顔。それは普段、あまり目にすることのない表情で。
勿論ダメなら良いんですが、と控えめに付け加えられた言葉は、あまり耳に入ってこなかった。




―――・・ああもう、この人は本当に!




オレは内心で烈しく悶える。
彼の、殆ど初めてかもしれない我儘がこんなに可愛いものなんて。
ていうか、ダメな訳がない!二人きりなんて最高じゃないか!!
この人へのプレゼントの筈なのに、これでは所謂俺得≠チてヤツになっているかもしれない。
でもそんな些細なことはこの際どうだっていい。
もうオレの身も心も全部あんたに捧げるから、どうぞすきにしちゃって頂戴!
なんて思いながら、気付けばオレは彼に抱き付いて「すっげえすきデスっ!」と大声で叫んでいた。








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