GM SSS

13




七夕が近くなったので、スタッフルーム近くの廊下に笹飾りが置かれることになった。
笹飾りとはいっても、水を張ったバケツに小ぶりな笹を活けてあるだけなんだけど。それでも七夕を前に、笹飾りにはスタッフの手でいろんな色紙を使った飾りや短冊がいくつも吊り下げられている。
・・・そういうのを目にすると、やっぱり僕も何か書きたくなっちゃう訳で。
スタッフにお願いして、短冊を何枚か分けて貰った。
ムックもやりたがるだろうと思って多めに貰おうとしたら、僕より先に願い事を書いた短冊を吊るしているらしい。こんな時ばっかりムックは行動が早い。どうせなら僕にも声を掛けてくれたらいいのに。
なんて思いながらも、僕は貰った短冊に幾つか願い事を書いた。


『もっともっとチャレンジしたい』
『いろんな国に行ってみたい』
『かっこいい男になるよ』


三枚書いても、まだ短冊が余っている。
少し考えたけど、これ以外に何も願い事が浮かばなかった。
こうして改まって考えてみると、案外思いつかないものみたいだ。
まあ、無理に書かなくても余った分は返せばいいんだし。
そんなことを思いながら、僕は笹飾りに願い事を書いた短冊を吊るしに行った。適当な枝を選んで短冊を吊るしていると、すぐ隣にある短冊がムックのものだと気付く。
何気なく目を遣ると、そこにはこう書かれていた。


『毎日腹いっぱい食べたい』


僕は思わず噴き出していた。だってムックはいつも沢山食べてるのに、あれでもまだ足りないのかな。
でも、この願い事はムックらしいかも。
他にも何か書いてるかな、と思って短冊を見ていたら、あった。


『今年もかっこよく生きたい』


・・・今年も?
っていうか、その前にムックはかっこいい生き方なんてしてたっけ。
どっちかといえば、食べる方にばかり心を砕いてる気がするんだけど。
大体、今年も半分終わりかけてるのに、今更こんなこと書くなんて。
こういうのはお正月にする目標じゃないのかな。ムックったら可笑しいの。
なんて思っていたら、その近くにもっとインパクトの強い願い事があった。


『We Can☆Girlsになりたい』


僕は今度こそ腹を抱えて笑った。
『We Can☆Girls』っていうのは、『We Can』っていう番組に出てくる女の子たちのこと。全員厳しいオーディションの中で選ばれている子たちだから、皆すっごくかわいいんだ。
でも“Girls”って名前の通り、女の子しかなれない。
だからどう頑張ってもムックには無理なのに。ホント、変なこと考えるなぁ。
収まり切らない可笑しさの所為で緩む口元のまま、他にも何か書いていないかと短冊を見ていく。するとまたムックの願い事を見付けた。
でも、そこに書かれている内容を見た僕の笑いは完全に止まっていた。
だって、その短冊の中身が。


『おりひめになりたい』


・・・ムック、この間のこと気にしてたんだ。
少し前に、僕たちは仕事で七夕の衣装を着る機会があった。
僕、ホントはひこぼしの衣装が良かったんだけど、用意されていたのはおりひめの衣装だった。身長的にムックより僕の方が似合う、って思われたみたい。だから仕方なく、僕はおりひめ、ムックがひこぼしの衣装を着て撮影をした。
ムックはそれについて何にも言わなかったけど・・・やっぱりムックもおりひめの方が良かったんだ。
僕に短冊のことを言わなかったのも、『We Can☆Girlsになりたい』っていう願い事も、その所為だったのかな。
僕はムックの書いた短冊をじっと見つめた。
そして返そうと思って持ってきていた余りの短冊に、もうひとつだけ願い事を書いた。


『いっぱい食べて大きくなる』


いっぱい食べてムックより大きくなったら、きっとひこぼしは僕の役になる。僕がひこぼしなら、必然的にムックがおりひめになるハズだ。
ムックは、喜んでおりひめの格好をするんだろう。それで僕に「似合いますか?」なんてうれしそうに訊いてくるかもしれない。
そんなムックの様子を頭に思い浮かべて、自然と緩む頬のまま。
僕はムックの短冊の隣に願い事を吊るした。






-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system