GM SSS

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お風呂上がりのわたくしを見ると、ガチャピンは決まって同じことを口にします。今だって、リビングのソファに座っていたのにわたくしをひと目見るなり。
「あ、ムックはまたぁ!」
なんて、咎めるような声を上げて立ち上がります。
その後に続くのは、お決まりの台詞。
「もう、ちゃんと髪を拭かなきゃダメだって言ってるでしょ!」
・・・でも、言われても仕方がないのです。わたくしの濡れた髪からは今にもぽたぽたと雫が滴り落ちそうになっているのですから。
えへへ、と誤魔化すように笑ってみせれば、ガチャピンは少し呆れたような、それでも仕方ないな、という顔つきで以て口を開きます。
「ほら、ソファに座って」
指示されたソファに大人しく座ると、わたくしの目の前にガチャピンが立ちました。そしてわたくしの肩に掛ったタオルを手に取ると、両手で以て髪を拭いてくれます。
強くも弱くもない、丁度良い加減で、タオルが濡れた髪を掻き回しています。髪とタオルの擦れるわしゃわしゃという音が耳いっぱいに響く中に、ガチャピンの声が混じります。
「ムックはどうしてちゃんと髪を拭かないの?服が濡れるし、それに寒くなったら風邪ひいちゃうかもしれないんだよ」
お小言めいたことを口にしながらも、ガチャピンは髪を拭く手を止めません。わたくしはそれにうっとりと瞼を閉じます。
ガチャピンに、こうして髪を拭いて貰っている時間がわたくしは好きでした。この時ばかりは、どこに行っても人気者のガチャピンを独り占めしているように思えるから。ガチャピンに甘やかされていると感じられるのが、何より嬉しいのです。
髪をきちんと拭かないのも、そのままガチャピンの居るところまで行くのも、皆狙ってのこと。
何も言わないけれど、多分ガチャピンもわたくしの企みに気付いているのでしょう。だって、ガチャピンが家に居る日は毎日みたいにこうして髪を拭いて貰っているのですから。
でも、口では何だかんだと言いながらもこうして髪を拭いてくれるのは、ガチャピンもこうすることが嫌ではない証拠、ではないでしょうか。
今だってほら、瞼を開いてちらりと伺った顔は満更でもないようなのです。だから結局は、お互いにこの時間が好き、なのでしょう。
それに、ふふ、と小さく笑い声を漏らせば。
「なに笑ってるの?」
「いいえ、別に」
「・・・ヘンなムック」
そう言いながらも、ガチャピンの顔に浮かぶ表情はどこまでもやわらかいものなのでした。







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