モドル

● If a wish Comes true --- 【wish K×I】 ●




酒瓶の詰ったビニル袋を片手に酒屋からイルカ先生のアパートへと戻ったオレは、それを卓袱台の上に無造作に置いた。
・・・度数の強いものばかりを選んだのは、早く酔い潰れてしまいたかったからだ。早々に潰れて、イルカ先生がここに居ないという現実を忘れたかった。口に出せば陳腐なことこの上ないが、実際問題オレは淋しくて仕方なかったんだ。
袋の中から適当な酒瓶を一本抜き取る。手に取った瓶は二合入りで、他の酒瓶と比べるとかなり小ぶりなサイズだった。
どうせ呑み切るつもりだったしコップを用意するのも億劫で、オレは瓶に直に口を付けようとした。すると耳に届く、玄関のドアが開く音。次いで、「ただいま」と今一番聞きたかった声も聞こえてくる。
帰ってくるまでに、後一週間はある筈なのに。
一瞬、会いたさ故の幻聴かとも思ったが、どうやったって間違えようのない気配がそこにはある。
すぐにオレは卓袱台に瓶を置くと、慌てて立ち上がろうとした。けれど足が畳で滑って前方につんのめるついでに大きく蹌踉ける。
異様に格好悪いが、今はそんなことを気にする余裕はない。
漸く気持ちに足が追いついて玄関まで辿り着くと、そこにはずっと会いたくて堪らなかった人が立っていた。
背負っていた重そうな背嚢を玄関先に下ろしていた相手と目が合っただけで、胸が一杯になって何も言えなくなる。
「ちょっと無理言って、早めに帰らせてもらったんです」
そう言って笑うイルカ先生に、オレは堪らなくなってぎゅっと抱きついていた。
「おかえり。会いたかった」
「・・・オレもですよ」
少し擽ったそうに言いながら、そっと背に回された腕で抱き締められる。
確かにそこに在る、イルカ先生の腕や身体の存在。そして感じる、人の持つ温かな熱。
ああ、イルカ先生がここに居る。
その事実にうっとりとしながら首筋に顔を埋めようとして、ふと甘い匂いが鼻についた。
シャンプーや香水みたく人工的な匂いとは違う、でもどこかで嗅いだことがあるような香。
しかしながら濃厚なそれは、嗅いでいる内に頭の芯を痺れさせ、感情や理性がまるで狂わされていくような感覚すら覚える。
呼気と体温とがオレの意志に反して勝手に上がっていくのを感じる。
酒を口にしてはいないのに、奇妙な酩酊感すら生じる始末。どうやらこの匂いはイルカ先生からしているらしい。
媚薬の類には十二分に耐性のあるハズのオレの理性は揺らぎ、最早風前の灯だった。
「・・・カカシ先生?」
腕の中に囲い込んだままのイルカ先生から、訝るような声が上がる。それはそうだ、自分でもおかしいとわかる。それでも息は上がり続けて奇妙な酩酊感も一向に収まらない。いつしかイルカ先生の背に回した腕が緩み、だらりと下方へ滑っていた。
じわじわと、身の内に今迄感じたことのない異様な感覚が広がっていく。
ある時それは突如として大きく沸き上がり、津波のようにオレを一気に呑み込んだ。思わず、丁度手に当たっていたイルカ先生の尻を鷲掴めば「ギャっ?!」という色気のない悲鳴が上がる。
しかしそれすら煽られる要素として変換されて聞こえる辺り、やっぱりおかしい。おかしいと思いながらも、気付けばオレはイルカ先生を玄関の板の間へと押し倒していた。
「え?ちょ、カカシ先生!?」
驚いたように叫ぶイルカ先生からは、途切れることなく甘い匂いが香る。蜜に誘われる虫のように顔を近付け、深く息を吸い込みながら。
「いい匂い」
「ハァ?なに・・・っん!?」
何か言おうとしていたイルカ先生の唇を、そっくり同じもので塞ぐ。そのまま言葉を奪うように舌を絡め取った。
絡まる舌からとろりと濃い甘さが伝わってくるような気がして、執拗な口吻けを続ける。するとその内イルカ先生の身体から力が抜け、くたりと大人しくなった。
それに名残惜しいものを覚えながらも唇を離せば、イルカ先生は目元に朱を刷いて、ついでに荒い息を吐いていた。そしてしきりに「こんなことまで頼んでないのに」とぼやいている。それはオレに対して零しているのではなさそうだったが、明らかに他所事を考えているらしい相手に強い憤りを覚えていた。凶暴な感情が、頭を擡げる。
「他所事、考えないでよ」
イルカ先生の額当てをぐっと上に押し上げるようにして外し、身につけていたベストの前を乱暴に開く。ついでにアンダーへ手を掛けると、イルカ先生はビクリと大きく身体を竦ませた。
「こんなところで何してんだバカ!手ぇ離せっ!!」
大声で喚いて、オレの身体の下で暴れる。かといって、オレもこのまますんなりと止められる状態にない。
仕方なしに外した額当てでその腕を縛り上げ、ベストに仕込まれていた細身のクナイを拝借して床に固定する。少々癖の悪い脚は上からオレの体重を掛けて封じた。これでイルカ先生は身動きが取れない。
口惜しいと言わんばかりの様子で、下から睨みつけるような眼差しを受ける。それに、ぞくりと背筋が震える。
次いで何故か笑い出したい衝動に駆られつつ、オレは見せ付けるようにアンダーの裾を口で咥えて胸元まで引き上げてやった。
この時点で、明らかにいつもと何かが違うのが己にもわかった。普段ならイルカ先生が厭がった時点で、慌てて身を引くようなオレなのだ。
・・・なのに今日はこのまま止められそうにない。オレは突き動かされるような衝動に乗って、晒された胸元に顔を寄せると突起に舌を這わせる。
するとイルカ先生が小さく息を詰めたのがわかった。そのまま舌で転がすように突起を弄り、啄ばむように唇で挟み込む。時折、軽く歯を立てれば、その度イルカ先生はびくびくと身体を震わせて噛み殺したような吐息を漏らした。
その間に、イルカ先生が纏っていたものを全て剥ぎ取って、下肢を露にさせる。
既に勃ち上がり始めていた花芯に目を細めて、誘われるみたいに唇を寄せる。イルカ先生は最後の抵抗いわんばかりに身を捩らせ、腿を固く閉じようとしたけれど、両腿の間に身体を滑り込ませることで難なくそれを阻止する。
緩く力を持つ花芯をいきなり口内に迎え入れることはせず、舌全体でその形をなぞらえるよう動かしていく。与えられる刺激がもどかしいのか、徐々に揺れ始めたイルカ先生の腰の動きがオレにも伝わる。
それでもたっぷりと唾液を塗りこめるようにして舌を這わせれば、その内唾液とは違うとろりと苦いものがそこに混じり始めた。
それがより強い、括れから先端の窪みを舌先で執拗に嬲り、唇で吸い上げてやる。するとイルカ先生は喉元を晒すように頭を仰け反らせ、声にならない悲鳴を上げた。次いで根元近くまで飲み込むように口内へと迎え入れれば、イルカ先生はあっけなく達してしまった。
その、いつもより濃く感じるものを飲み下してその顔を見遣る。頬を上気させ、荒い息を吐いたまま、どこか放心したように天井を眺めるイルカ先生の眦に、薄っすら涙が溜まっていた。
甘い匂いが、先程より強くなったのを感じる。頭の芯が揺らぎ、酩酊感も更に増す。もう既に、オレ自身のものも限界に近かった。
潤滑油的な何かを探す時間すら惜しく、オレはイルカ先生の両脚を肩へ抱え上げると、奥まった蕾に舌を這わせる。
「やっ・・きたないから・・・ッ」
正気を取り戻したらしいイルカ先生が、僅かに震える声で訴えてくるのにも興奮を押さえられない。ますます凶暴な感情がオレを支配する。
固く閉じたそこに満遍なく舌を這わせ、指でこじ開けるようにしながら尖らせた舌先を差し入れる。
中を濡らすつもりで注いだ唾液を舌で襞に塗り込めるようにすれば、それがわかるのかイルカ先生の身体が強張る。それでも熱く潤んだ瞳や、唇から漏れる艶めいた息遣いが、感じていることを如実に伝えてくれる。
いつしかオレの唾液でしっとりと濡れたそこを、丁寧に指で解していく。
早く挿れたくて仕方なかったけれど、二週間ぶりだからあまり無理もさせられない。
絡みついてくる襞を押し広げるように指を動かし、時々善い部分を爪で引っかくようにして擦り上げる。
その度にあ、あ、と短く悲鳴のような声を上げて、イルカ先生がのたうつみたいに大きく背を撓らせる。
上手く呼吸が出来ないみたいにはぁはぁと荒く息を吐きながら、熱でとろりと蕩けた眼差しを向けられる。再び力を持ち始めたイルカ先生の花芯と同様、オレのものもきつく張り詰め、既に痛みを感じるほどになっていた。
襞から指を引き抜き、代わりに下衣の前を寛げて猛りきったオレの雄を取り出す。先端を綻び始めた蕾に押し当てると、そのままぐっと腰を進める。熱く絡みつく襞を押し開き、形を馴染ませるように小刻みに揺すれば、イルカ先生が堪えるように眉根を寄せて唇を噛む。その顔にオレはますます欲情する。
一度根元まで飲み込ませて、間髪を入れずに深く浅くリズムを付けて抽挿を繰り返す。最初こそ苦しげに顔を歪ませても、その内感じ入った甘い声を上げることをオレは知っている。そのまま揺さ振れば案の定、イルカ先生は切れ切れに甘い声で啼き出した。
「ふぁ・・あっ、あ・・カカシせんせぇ・・・ッ」
舌足らずにオレの名前を呼ぶのが、最高に腰にクる。堪らず、欲望の丈を最奥に吐き出しても、オレのものはすぐに力を取り戻した。
なんだか今日は制限がきかない。イルカ先生をイかせても、オレがイっても、全然足りない。
螺子が一本飛んだようになっているのは、ずっと漂い続けているこの甘い匂いの所為。
そう思うことにして、オレは遠慮なく腰を振り、楔を最奥へ向けて打ち付ける。


―――そうして、オレが限界を感じてごろりと玄関の板の間に転がった時には、イルカ先生の意識は既になかった。
ひんやりと冷たい床が、火照った身体に心地良い。収まりきらない荒い息を吐きながら、オレは身体中に満ちる充足感に口元を緩めていた。
しかしそこで気付く。いつの間にか、あの甘い匂いが消えていたのだ。鼻を動かして感じるのは、情交後特有の青臭い精の匂いばかりだった。
「・・・何だったんだろ、アレ」
そう呟いて身体を反転させたところで、イルカ先生の身体にぶつかる。
途中でクナイを引き抜いて後背から攻めたので、うつ伏せのままぐったりと動かない身体に視線を彷徨わせていたら、ある部分で目が留まった。
双丘の間、閉じきらない蕾から中に存分に注ぎ込んだオレのものがとろりと溢れ出していた。
それを目にし、零れるものを指で掬って何気なくイルカ先生の尻臀に塗りこめるようにしていたら、ふと。
「あ、黄桃っぽい」
そのつやつやと艶めかしい色味といいこの形といいそっくりだ、なんて本人が聞いたら怒り出しそうなことを思っていたところで。
「オプション、付き過ぎ・・・」
イルカ先生が険しい形相で呻くように呟き、ついでにぎりぎりと歯噛みする。しかしそれでも意識は戻っていないようだった。
それにしても・・・オプションって何のことだろう?
わからないまま、オレはひとり首を捻る。
勿論、答えは出てこなかった。






【了】

モドル

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system