GM SSS

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「しばらく会えないから、ムックはきっとさみしくなっちゃうね」


そう言って、ガチャピンはわたくしの髪を構っています。
最初は手のひらで全体をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫ぜて、飽きると今度は指で丁寧に梳くようにするのです。
ガチャピンがわたくしの髪を構うのがすきなのは知っていますが、今日はいつもより構う時間が長いように思います。
でも、それも仕方のないことでしょう。
数日後には、ガチャピンはヒマラヤまで出掛けてしまうのですから。
番組の収録の為に登山をして、帰ってくるのは2か月以上も先なのだそうです。お互いに、それだけ長く離れたことなんて今迄ありません。
だからわたくしだってさみしい。
けれど、わたくしよりもっとさみしさを感じているのはきっとガチャピンの方、なのでしょう。
その証拠にほら、目の前の鏡に映るガチャピンの顔はわたくしより余程さみしそう。
でも、やさしいわたくしは何も口には出しません。
代わりに、ガチャピンの気が済むまでされるがままになるのです。
それにしばらくはこうして髪を構って貰える機会もなくなるのですし。
「ねえ、ムックがさみしくないようにこれ、あげるね」
ずっと髪を構っていたガチャピンはそう言うと、わたくしの前髪を片手で掬い上げました。そのまま、いつの間にか準備されていた髪ゴムで頭の天辺あたりをひと括りにして結びます。
目の前の鏡の中、いつもは隠れている額が丸見えの様子はひどく間が抜けているように感じましたけれど、わたくしはそのままにしておくことにしました。
何故なら髪ゴムにはガチャピンの顔を模した飾りが付いているのです。
これでは外すなんてとても出来ませんよね。
「ありがとうございます、ガチャピン。大事にしますね」
そう告げてから、鏡を見ていた顔ごと上に向ければ、わたくしを見下ろすような格好のガチャピンと目が合いました。
すると、どこか照れ臭そうにガチャピンが笑います。
わたくしも、それにつられるように笑みを返して。


・・・どうか、ガチャピンが無事に帰ってきますように。


心の中でそっと願うのでした。






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