GM SSS

17




「ねえ、ガチャピンとムックはどっちが受けなの?」
本番待ちのスタジオの中で、隣に居たアンちゃんから唐突に訊かれた。
訊いてきたアンちゃんの目が妙にきらきら・・・いや、ちょっぴりぎらぎらしているのが気にはなったんだけど。
「受けってなに?」
そう訊いたら、アンちゃんは明らかに衝撃を受けたと言わんばかりの顔付きになった。
両目を大きく剥いて、眉間に深く皺を寄せている顔はおんなのこ向け番組のマスコットキャラクターとしてはどうなんだろう。
見つめる僕の視線に気付いたのかアンちゃんはすぐに表情を整えた。そして今度は状況を慎重に見極めんとするような目をこちらへ向けてくる。
「・・・本当に知らないの?冗談じゃなくて」
「うん」
僕が頷けば、アンちゃんは再び眉間に皺を寄せて渋い顔をしてみせた。どうやら眉間に皺を寄せるのが癖になっているらしい。おんなのこなのにいいのかなぁ。
「うーん、受けっていうのは受ける側っていうか受身っていうか・・・ぶっちゃけ、突っ込まれる方のこと!もー、おんなのこにこんなこと言わせないでよぉ!!」
なんて言いながら、僕の肩をばしばしと叩いてくる。一切の遠慮がない分、かなり痛い。でも受身で突っ込まれる方か。
突っ込まれるっていえば、僕ってムックからよくこう評されるんだよね。
「ガチャピンって、結構天然ですよね」
その所為か日常的にムックからいろいろ言われることが多い。ムック以外にも、スタッフのひとから天然って言われたりもするし。
自分ではちっとも自覚がないから不本意なんだけど、でもあまりにも皆が言うからそうなのかな?なんて最近では思ったりもしているんだ。
それをボケとツッコミで考えるなら、僕の方が突っ込まれる方、ってことだよね?
「・・・僕が受けかも」
素直に答えたら、アンちゃんは「きゃー!」と一際甲高い声を上げた。すぐ傍で大声を出された所為か、耳がきんと痛む。
「ガチャピンが受けなのね!?逆かと思ってたのに意外!ロロとミイにも教えてあげなくちゃっ!!じゃあね、ガチャピン!!!」
すっかり興奮した様子のアンちゃんは、そう言うと僕を置いて他の二人のところへ走っていってしまった。
走り去るアンちゃんの後姿を眺めながら、受身ってそんなに大騒ぎするほどのものなのかな、なんてその時は暢気に考えていたんだ。




「―――― ガチャピンっ!」
大きく足音を響かせんばかりにして、スタジオに続く廊下の向こうから凄い形相をしたムックがやってきた。
ムックの顔はちょっとどころではなく、かなり怒っているみたいに見える。正しく憤慨、って感じだ。
「どうしたの、ムック?」
「アンちゃんたちになにを言ったんですか?!」
「え、なにって」
訊き返した僕に、ムックはすっかりいきり立った様子で捲し立ててくる。
「先程、廊下でロリポップスの三人に呼びとめられたんです。そうしたら三人から口ぐちに『ガチャピンとはどう?』とか『やさしくシてあげてる?』とか『週何回くらいヤってるの?』なんて訊かれて。わたくし、顔から火が出そうでしたよっ」
「・・・なんで三人がそんなことを言うの?」
「ガチャピンが自分で受けって言ったんでしょう!?」
今にも裏返らんばかりの声でムックが叫ぶ。その大きな声は誰も居ない廊下に響き渡った。普段、ムックがこんな声を上げることはないから、僕の方がビックリしてしまう。
確かに、アンちゃんに訊かれてそう答えたけど。でもムックがこんなに怒っているってことは・・・もしかして僕、意味を勘違いしてたのかな。
「ねえ、受けってどういう意味?」
僕の言葉にムックはこれ以上ないってほど顔を強張らせた後で、大きく溜息を吐いた。それは酷く呆れているようでもあったんだ。
「受けっていうのは、同性同士でHした時に受身に回る方ってことですよ・・・っ」
「え、そうなの!?」
「本当に知らなかったんですか?」
「だって、ボケとツッコミのことかと思ってたから」
そう告げれば、目の前のムックは更に深くて重い溜息を吐いた。
「・・・まあ、ガチャピンなら仕方ないですよね」
どこか諦めにも似た様子で言われてしまう。でも、そんなのは僕としても不本意だ。だって僕とムックは、ロリポップスの三人が思っているのとは逆なんだから。
「僕、今から訂正してくる」
「ええっ?」
「だって、間違ったままじゃダメでしょ」
「もういいじゃないですか、放っておけば」
「良くないよ!三人にもちゃんと知っておいて貰わないと」
僕の勘違いが原因とはいえ、間違ったことをそのままにしていい訳がない。僕が意気込んで走り出した後ろから「ちょ、ガチャピン・・・!」と慌てたようなムックの声がしたけど、もう構っていられなかった。
その後、僕はスタジオでロリポップスの三人を捉まえると間違いを詫びて、本来の正しい僕達のあり方を話した。
すると三人は事情を察してくれたらしく、「じゃあやっぱりムックが受けなのね」とすぐに納得してくれた。
それに僕が胸を撫で下ろす間もなく、今度は三人からムックのことについていろいろ訊かれたんだ。だから素直にムックの可愛さとかどういうところがすきなのかについて答えたんだけど・・・後で三人から話を聞いたらしいムックから物凄く怒られてしまった。
「なんでガチャピンは余計なことばっかり言うんですかっ!」
「え、なんのこと?」
「普通誰かに言わないでしょ、Hの最中のことなんてっ!!」
「だってムックが『もっと』ってオネダリしてくるのとか、僕にぎゅうぎゅう一生懸命抱き付いてくるの、可愛くてすきなんだもん」
「――― っ!」




・・・これ以降、僕が暫くムックに口をきいて貰えなかったのは、また別の話。







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