GM SSS




ムックとケンカをした。
始めは何気ない一言だったのに、その内お互いが妙にムキになった。
口調はどんどんきつくなり、酷い言葉も吐いて、最後には。

「もう顔も見たくないですっ!」

そう言って、ムックは自分の部屋に閉じこもったきり、出てこない。
勿論僕だって、気分は最悪。
なんであそこまで言われなくちゃならないんだ、とか、そっちがその気ならこっちだって、なんて意固地な思いすら湧いてくる。
もやもやとした黒いものが胸の中で渦を巻き始めたら、もうお手上げ。
何をしてもイライラして、やらなくちゃいけないこともちっとも手に付かなくなるんだ。

―――こういう時、決まって僕はキッチンの冷蔵庫を覗くことにしている。

扉を開けて、様々な食材に交じって置かれている、バターに卵、ミルクとブルーベリージャムの瓶が入っているのを確かめる。
それから、冷蔵庫の傍にある調味料なんかを纏めて入れている棚に砂糖と小麦粉があるのも忘れずに。
どうやら、ひとつも欠けているものはなさそうだ。
よし、作れる。
そうして僕は、必要なものをごそごそと引っ張り出していく。
ムックとケンカをする度に作る、ブルーベリーマフィン。
ムックと出会ってから、もう数え切れないくらい作っているから分量や手順なんてわざわざレシピを見なくてもそらでいけるんだ。
きちんと量った、バター、砂糖、卵、ミルク、小麦粉、ブルーベリージャムを順番にボウルの中に放り込んで、泡立て器やヘラを手にがしがしと、思うまま力一杯掻き混ぜる。
ついでに、もやもやも、イライラも、黒くて悪くていやなものを全部、混ぜ込むつもりで手を動かす。
するとその内、薄い紫色の生地がボウルの中に出来上がる。それを小さな金属の型にスプーンで掬い入れ、温めておいたオーブンへ。
オーブンの中で薄紫の生地が徐々に色付いて膨らみながら、ふんわりと甘い匂いを漂わせる頃。
僕の中にあったもやもやとした黒いものはすっかり萎んで、代わりに、ちょっと言い過ぎたなぁ、とかムックに悪いことしたかも、なんて思いが一気に膨れ上がってくる。
そうしたら今度はマフィンの出番。
ムックは僕の作るこのマフィンが大好きなんだ。
だから、焼きたてに冷たいミルクを付けて、ムックを呼びに行こう。
そして僕からゴメンねと素直に謝って、ほかほかと湯気の立つマフィンをふたりで食べよう。
これが僕たちの、仲直りのレシピ。






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