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続いてゆく日々のいとしさ




五月四日

最近、ほぼ無意識的に彼を目で追ってしまう。
彼のアパートに居る時は勿論、外で会っても気付けば目がその姿を追っている。
受付所やアカデミーでも彼の気配を感じれば自然と目が向いてしまう。
また目で追うだけに飽き足らず、身体が空いていれば後をこっそり付けて変調が無いのを確かめる、といったことまでしている。
これもまた、ほぼ無意識的にやっているのだから性質が悪い。
オレとしては決して悪意がある訳ではないが、一歩間違えればストーカーと呼ばれても仕方のない行為に「まだ見えてますから」と彼は繰り返し言うのだけれど。
でも目で追ってしまう。付き纏ってしまう。
・・・そんなオレに、彼はとうとう業を煮やしたらしい。
「何かあったら、一番にアンタに知らせますから」
ね?なんて理解の悪い子供にでも言って聞かせるような口調でこられるとかなり不本意ではある。
ただ、不安なだけなのだ。離れている間に何かあったらどうしようと。
それに急に見えなくなったらどうするつもりなの?
などと懸命に言い募るオレに対して、彼はすっかり呆れたように言う。
「・・・本当に子供みたいな心配をしますね、アンタは。こんなのはどうにかなりますって。大体、父も祖父も何とかしてきたんだから」
大丈夫大丈夫、と手のひらがぽんぽんと軽くオレの頭に触れる。
これでは本当にアカデミーの生徒と同列扱いだ。
でもオレの不安はまだ完全に消えてはいなかった。何と言われても不安なものは不安なのだ。
だってこの人、しっかりしているようで結構抜けているところがあるし、物事をいい加減に捉えて適当にすることが多いし。
ひとつのことに集中すると他がみんな散漫になるし、何か起こった時に臨機応変に対応するのが苦手だし、それにずっと内勤の中忍だし。
しかし正直な思いを伝えれば、何故か彼の表情が一気に引き攣った。

「・・・さっきから聞いてれば、オレを一体何だと思ってるんですか!」

どうやら本気で怒らせてしまったらしい。
怒らせようと思った訳ではないのに、何が悪かったんだろう。
それでも怒り狂った彼から必要以上に付き纏わないことを強制的に約束させられたオレは、本人に内緒で忍犬を付けることにした。
いつも傍に居られないなら、せめてこれぐらいは許して欲しい。





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