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続いてゆく日々のいとしさ




五月九日

任務を滞りなく済ませ、報告もそこそこに彼のアパートへと戻る。
気持ちが焦っている所為か、鍵を開けるのももどかしく感じつつ、目前の扉を力任せに押し開く。
バン、と大きな音が玄関先に響いた後、ひょっこりと顔を覗かせた彼がオレを見てふと笑みを零した。それは苦笑いに似た、全く仕方ないな、とでも言いたげな顔だった。
それに気恥ずかしいものを覚えながらも一応、何事もなかったかと訊ねれば「何も無いですよ」と今度こそはっきり苦笑いされる。
・・・どうも完全にアカデミーの生徒と同等扱いされているらしい。
それに気恥ずかしさが増すのを感じていれば、彼の奥からもう一人顔を覗かせる相手に気付く。丁度部屋に居合わせたらしいナルトは、オレと目が合うと約束は守ったぜと言わんばかりの得意気な顔付きで以て、にっと歯を見せて笑ってみせる。
「だいじょーぶ!オレもずーっと先生の傍に付いてたんだしさ!!」
「そういうことです。あ、そういえばコイツ、カカシ先生が居ない時に・・・」
「わっ、それ言うなってばよ!」
すっかり慌てた様子のナルトに服の袖を引っ張られながら、どうしようかな、とばかりに彼が悪戯小僧の顔で笑う。
目前で繰り広げられる光景は微笑ましくもあったが、しかしそれ以上に面白くない、という思いが強く湧いてくる。
昔から彼とナルトがべったりなのは十分わかっている筈なのに、今はどうにも胸の辺りがもやもやする。出掛けのナルトとの遣り取りも関係しているのだろうか。大人げないと思う一方、やはりどうにも面白くない。
「・・・お前そろそろ帰れば?」
「えー!いいじゃん!!」
「そうですよ、折角来てくれてるのに」
ふたりで口を揃えて言う。
オレが居ない間に師弟の結びつきが更に強まっているのを感じ、面白くない心持ちがますます膨れ上がる。しかしながらこのがっちり徒党の組まれた雰囲気の中で再び帰れ、とは言い出し辛い。下手なことを言って了見が狭いと思われるのも癪だったし。
それにしても、彼は男心の機微というものに疎過ぎやしないだろうか。
折角任務を滞りなく済ませて脇目もふらずに帰って来たっていうのに。普通恋人なら、その辺りを汲んで労ってくれるものじゃないの?
なんて、不貞腐れた気分で部屋へと上がる。
苛立ち紛れに、身に付けていた装備や荷物を無言のまま床へと放っていると、彼が声を掛けてくる。
「カカシ先生、飯まだですよね?オレ、何か作ってきますからちょっと待っててくれますか」
オレの返事を待たずに、そうにこやかに告げた彼が台所へと消える。
・・・もしかして、オレが腹が減っていて不機嫌になってると思っているんだろうか。そういう訳じゃちっともないんだけど。
なんて疑いつつもその背中を見送って、オレは卓袱台の前に座った。
するとナルトがおもむろに卓袱台へ近付いてくる。そして台所の様子を気にしながらオレが居ない間の彼の様子を話してくれた。
大半は彼に付けていた忍犬から報告を受けて知っていたんだけど、その中でひとつだけ引っ掛かる言葉があった。

「オレってば、カカシ先生と似てるんだってさ」

心外だってば、と本人を目の前にして不本意そうに零すナルトにオレは固まる。
だってオレに似ているということは、彼の中でオレとナルトは同列扱いということで。同列扱いということは・・・もしかしたらうっかり何かの間違いがあってもおかしくないってことじゃないか!
―――・・これが随分と飛躍な思考だというのは重々承知している。
でも一度そんな風に考えてしまうともうダメだった。オレはあるひとつの結論に達すると、それに妙に拘ってしまう性質なのだ。
一刻も早くナルトを追い出さなくては、と焦るオレに「出来ましたよ」といやに明るい声が掛けられる。
いつの間にか、彼が湯気の立つ丼を盆に載せて部屋に戻ってきていた。因みに、丼の中身はラーメンだった。
「すいません、ご飯を切らしちゃって」
申し訳無さそうに告げる彼に、いや構いません、とどこか上の空で返して丼を受け取る。なにせ今オレはそれどころではないんだ。
高ランクの任務ばりに様々のナルト追い出し作戦とそれに伴う手順のシュミレーションを頭の中に巡らせる間に、原因のナルトはオレの手元をきらきらと輝いた目で以て見つめていた。
「なあイルカ先生、オレもラーメン食いたいってば!」
「はぁ?さっき夕飯食ったばっかりだろ。それにお前、ご飯三杯もお代わりしてたじゃねぇか」
「えー、でもラーメンは別腹だってばよ!」
食べたい食べたいと駄々を捏ねるナルトに、彼ははあ、と大袈裟に息を吐いてみせた。
「・・・ったく、仕方ねぇなあ」
そう小さく零すと、彼が台所へ逆戻りしていく。
「おーい、みそとしょう油、どっちだー?」
「あ、オレみそがいいってば!」
弾んだ声を上げて、ナルトも台所に消える。その後で台所から楽しげな遣り取りや笑い声がオレの耳にまで届く。
それを苦々しい思いで聞きながら、啜ったしょう油ラーメンは妙にしょっぱい気がした。




結局、その後もナルトはなんだかんだと理由を付けて帰らず、アパートに泊まっていくことになった。
彼の提案で、オレがひとりでベッドに、彼とナルトは床に敷いた客用の布団で寝ることに決まったのまでは、まあ仕方ないとしよう。
ただそこで、なんでここまでくっつく必要があるんだってほどぴったり寄り添って眠るふたりの姿を、オレは目にしてしまった。
それに再び苦々しいものを感じて、任務帰りで疲れている筈なのにその夜はよく眠れなかった。
・・・翌日の任務で、ナルトだけいやに当たりがきつくなってしまったのは、許して貰いたい。





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