美尻シリーズ

モドル | ススム

  お若いのが、お好き?  




「カカシ先生いいですか、いいケツにはちゃんとポイントがあってね」
そう、いやに先生めいた口調で言う彼が、布団の中からごそごそと抜き出した指で真っ暗な天井に向けて三角形を作ってみせる。
「この、天辺の点が丁度腰の中心にくると思って下さい。そこから左右の尻臀の膨らみの頂点を結んだ線―――これがきちんとした正三角形を描いているのが理想なんです。ヘンに肉が付きすぎていたり、垂れて形が崩れていたり、高さが左右対称になっていないのはダメなんですよ。因みに、このケツにおける三角点をオレはゴールデントライアングルと呼んでいます」
宙に浮かべた三角形を見据えて、いやに情熱的に語った彼は最後に力一杯断言する。
「カカシ先生は見事なゴールデントライアングルの持ち主なんです!もっと自信を持って見せびらかす勢いでもいいんですよ!!」
それを聞きながら、隣で寝そべるオレは、はぁ、と曖昧に返すくらい。これ以上の感想は出てこない。
だって実際、ゴールデントライアングルなんてどうでもいいし、何より尻に自信持てとか言われてもなぁ。普通、男で尻なんざ見せびらかしたりしませんから。
・・・というより、なんでこんな話になってるんでしょうね、オレ達。
だって、ついさっきまで熱く激しくねちっこく互いを求め合って、口には出せないアレコレに励んでいたワケじゃない。一応、オレが上でさ。
大体、その後のピロートークってヤツは、そのアレコレの余韻に浸ってなんかもっとこうイチャイチャというか、ベタベタというか、にっちゃにっちゃというか。なんにせよ、もっと恋人らしい、只管甘ったるいラブラブな空気が漂っていてもいいんじゃないのかな。
などと思うものの、尻好きな彼のスイッチが入れば、それを止める術をオレは持たない。一度話を始めたが最後、彼が満足するまで尻の話を延々と聞かされ続けるのはいつものことだ。それとセットで尻を撫で回されるのも同様に。
そういや、さっきから触り方がやらしくないですか。
しかもナニ御満悦な顔で「あー、やっぱり最高」とかおっさんくさいことを言ってるんですか。
でも毎度のことでそれにすら慣れかけている自分がちょっとイヤなんですが・・・。
だけど、こんな人でも大好きなんですよね、オレってば。
一度受身というものを経験してから、彼にオネダリされて上下の交代なんかもあったりするんですけど、それもまあ、他のヤツ・・・というより他のケツに目がいかないならいいか、とうっかり納得出来ちゃうようなオレなんです。
そこに行き着くのは結局、惚れた弱味、ってこと。
そんなオレは最近、尻の形をキープするという美容体操やマッサージを風呂でこっそり実践中だ。
だって、三十路過ぎたらなにより予防とケアが大事って雑誌に書かれていたし。それに尻の形が崩れたら、別れを切り出されるのが確実なんだもん、オレの場合。
ということで、日々涙ぐましい努力を続けてはいるんだけど。
でも、そんなオレの努力を嘲笑うかのように、この後彼は信じられない言葉を口にする。
「そういえばオレ今日、見ちゃったんですよね」
「何を?」
「オレの理想をそのまま形にしたようなゴールデントライアングルを・・・!アレは冗談抜きに興奮しましたよ!!」
「はいぃ?」
「こんなに近くに居たのになんで今迄気付かなかったかな、って感じなんですけど。オレもまだまだツメが甘いです、若い子だからって対象外にしてちゃいけませんでした。アレは本当に理想的でパーフェクトな形でしてね。ただ、若いだけにまだちょっと青いかな、と思わないでもないんですが。もう少し骨格がしっかりしてきたら腰骨もはっきり出て、もっといい感じになると思うんですよね。ああ、出来るならあのケツをオレの手できれいに育ててみたい・・・」
一気に捲し立てた彼は、その尻を思い浮かべているのか、天井を眺めながらうっとりと目を細めている。
ていうかそれ、聞き捨てならないんですけど!育てるってことは、オレの尻から乗り換えるっていいたいの!?
「やだなぁ、別にそんなつもりじゃないですよ。ただね、あのケツが何かの間違いで形が崩れるようなことになったらと思うと、もう気が気じゃないというか。多分、自分の不甲斐なさに泣けてきて、暫く立ち直れないんじゃないかな。あんなに芸術的な逸材は、十年に一度出るか出ないか。その美しさをオレの手で伸ばしてやれたら・・・きっとコレはケツ好きの冥利に尽きると思うんですよね」

―――彼の尻好きは今に始まったことではないけれど、今回のはちょっとマズいパターンじゃなかろうか。

彼がひとつの尻でここまで熱く語るのは初めてだ。しかも育てたいなんて。
彼の尻に対する審美眼だとか傾ける情熱が半端でないことをよく知っているからこそ、尚のこと気に障る。彼の目に留まったというその尻に嫉妬心さえ覚えるよう。
だってもしかしたらその尻に心酔して、オレに、というかオレの尻に興味を失ってそのまま捨てられちゃうとか・・・この人の場合、本当にあるかもしれないんだ!
でも、だからといって指を咥えて黙ってそれを見ているワケにはいかない。若い芽、否、オレにとって危ない芽になりそうなヤツは早々に摘み取って捻り潰しておかねば。
「ねえ、その芸術的なケツの持ち主って、オレも知ってるヤツ?」
なるべくさり気なさを装って訊けば、オレの内にどろどろと渦巻く黒いものに一切気付いていない風の彼があっさりと言う。
「ええ、カカシ先生も良く御存知ですよ」
・・・身内か。身内とはいえ、オレ達の間を脅かすヤツを見過ごしてはおけない。
悪いが、オレと彼の明るい未来の為にも犠牲になっていただこう。オレはこの人を誰にも譲る気はないんだ。
「それ、誰なんですか?」
かなりどきどきしながら再び訊ねたら、彼はにっこりと笑って。
「明日にでも教えますよ。さて、そろそろ寝ましょうか」
そう言うが早いか、ごそごそと布団の中に潜り込んでしまった。
その内、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてくる。彼の寝つきは吃驚するほど良いのだ。
そんな彼の寝顔を見つめながら、オレはひそかに、しかしながら心の内を薄暗いもので滾らせつつ『打倒!パーフェクト若ケツ』を誓っていた。




「やっぱりいいケツしてんなぁ・・・」

惚れ惚れ、とばかりに感嘆の息を漏らす彼の視線はある一点に集中している。
そんな彼の目前では現在、組み手の真っ最中だ。
今日は久しぶりに、七班での連帯とそれぞれの実力とを見る為に演習場を借りて、演習を行なっていた。それを彼は知っていたらしく、わざわざ見学に来ていたのだ。
組み手をするナルトの動きがいつもよりいいのは、彼の出現に張り切っている所為かもしれない。ひとつひとつの技のキレも申し分ないし、繰り出すタイミングも流れもいい。
但し残念ながら、組み手を眺めている彼の視線はナルトでも組み手の内容でもなく、全く別のところに向いているのだが。
ならばどこかといえば―――ナルトの相手をしているサイの、下半身に釘付けなのだ。
サイの一挙手一投足に目を光らせ、その動きによって尻がこちらに向くようなことがあれば、彼の目がぎらりと力を帯びる。
獲物を狙う狩人さながらの彼の様子を間近で見ているオレは、どうしても微妙な心境になってくる。いくらガキとはいえ、オレの目の前で他の野郎の尻(しかも若い)に目を光らせるって、ねえ。なんだか悲しくなってきちゃうんだけど。
そんなオレの繊細な男心になど気付くハズもなく、彼はまんじりとサイの動きを目で追い続けている。
その間に、ナルトとサイの組み手はつつがなく終了し、ナルトがまっしぐらにこちらへ向かって駆けてくる。
「イルカ先生っ、オレの組み手見ててくれた?」
彼の目の前に立って僅かに弾む息で訊ねるナルトは、背後に激しく振れる尻尾さえ見えるようだ。
「ああ、見てたよ。お前、頑張ってたな。動き、良かったぞ」
「ホント!?」
彼に褒められて嬉しそうな顔を見せるナルトを眺めながら。実際どこまで見てたんだろうな、と少しばかり訝しむような心持ちになるのは仕方ないだろう。
そんな、ぱっと見微笑ましい様子の師弟を眺めていたら。
「そういやさ、イルカ先生はなんで今日来たんだってばよ?」
いきなり直球の質問を投げ掛けるナルトに、うっかりオレの方が動揺してしまった。
理由が理由なだけに、まさか正直に告げるワケにもいかないだろうし、どうするつもりなんだろう。この人、上手く誤魔化せるんだろうか。
なんてハラハラしながら成り行きを眺めていたら、彼は何のてらいもなさそうな笑顔を見せてこう宣った。

「いやあ、サイのケツが将来有望だってカカシ先生に教えてあげようと思ってな」

―――オレ、自分の耳を疑いました。というかアンタ、ナルト相手に何言ってんの?!
なんて思ったんだけど、当のナルトはといえば「そっかー、将来ユーボーなのかぁ」と至って平然としている。
それどころか。
「なあ先生、オレのケツは?将来ユーボー?」
「うーん、そうだなぁ。お前も今から頑張ればイイ線いくんじゃないか」
「え、ホント!ならオレ、先生の為に頑張っちゃおっかな」
「ははは、そりゃ楽しみだ」
そう、笑いながら話している姿に衝撃を受ける。
ナニ、この師弟おかしくない?尻が将来有望とか言われたら普通、「先生キモイ!」とか言っちゃうトコじゃないの?
「あれはイルカ先生だから許されるんですよ」
オレの疑問に、いつの間にか真横に立っていたサクラがいともあっさりと答える。そういえばサクラも目前の光景に一切取り乱した様子がない。もしかして、今時の若者はそういうものなのだろうか。
「・・・アレ、ありなの?」
「イルカ先生にああいうところがあるの、アカデミー生ならみんな知ってることですもん。ただ、カカシ先生がやったら完璧セクハラですけどね」
さらりと問題発言をするサクラにオレが理不尽なものを感じている間にも、彼とナルト、そして何故かサイまで加わって尻談義に花が咲いていた。しかもどうやらその内容は、キレイな尻を作る為の運動について、らしい。
そして彼が見本としてやり始めたのは、いつもオレがこっそりやっている美容体操と全く同じものだった。
何気にアレって有名なんだな・・・。
「―――という感じでな、ケツをきゅっと締めるのを意識しながらやるんだ」
「んー、こんな感じ?」
ナルトが真似てやれば、彼は手を伸ばして普通にその尻を触っている。え、ちょっとナニやってンデスカ、それ?!
「いや、お前もうちょっと力入れられるだろ」
「え、もっと?じゃあサイはどうだってばよ・・・って、うわ、サイのケツ硬ってえ!」
「そうですか?」
「ナルト、お前もこれくらいは出来ねぇとやる意味ねぇぞ。あ、サイはこれからもこの体操続けろよ。いいケツは毎日の積み重ねが大事だからな」
「はぁ」
何故かコーチ口調の彼に、サイは至ってどうでもよさそうに返している。
しかしなんだろうこの状況。美容体操ついでに尻の触りっこ合戦みたくなっている現状を前に、オレが呆然としていれば。
「まあ、イルカ先生だし」
仕方ない、とでも言いたげにサクラは肩を竦めてみせる。
いや、でもこれ仕方なくないだろ。別にお触りは必要ないじゃん?
それにいくら子供相手とはいえ、オレの目の前で他のヤローの尻にベタベタ触るのって許せないんですけど!
しかもなんでアンタはそんなに嬉々として、その上水を得た魚みたくイキイキしてるのさ!?
ていうか、オレというものがありながらどういうつもりなの!!
そんな心持ちのまま、オレはつかつかと三人に近寄ると有無を言わさず彼を荷物のように肩に担ぎ上げる。
そして騒ぐナルトを無視してすぐに瞬身の術を発動させた。




彼を肩に担ぎ上げたまま、先程居た演習場から少し離れた別の演習場まで移動する。
そこでオレは漸く、肩の上でじっと大人しくしていた彼を地面に下ろしてやった。そしてそのまま彼の肩をがしりと掴むと、思わず大声で詰め寄る。
「アンタ、ナニ他のヤローのケツをベタベタ触ってるんですか!しかもオレの目の前で楽しげにっ!オレにケンカ売ってんですか!!」
「違いますよ、アレは指導みたいなモンですって」
「でもアンタ、うっれしそうに触ってたじゃないですか!」
「いや、やっぱり若い子のケツは触り心地が違うなと思って」
悪びれた様子もなくへらりと笑う彼に、流石のオレもカチンときた。
「アンタはそんなに若いのがいいんですかっ、エロオヤジっ!」
「エロ・・ってアンタ、随分言いますね」
「言いますよっ!イルカ先生のエロオヤジ!お稚児趣味!ショタコンっ!!」
この言葉を聞いた彼は、大仰に顔を顰めてみせた。目前の彼は今や、非常に人相の悪い顔付きになっている。
「・・・アンタから見て、オレはエロオヤジで、お稚児趣味のショタコンかもしれませんけどね。でも同じケツなら、若いのがいいに決まってるじゃないですか。触った感じ、すっごくいいし。あー、やっぱり若いのはいいなぁ、誰かさんのとは段違いだなぁ、雲泥の差だなぁ」
当てつけのように言いながら、彼が顔を背ける。オレはそれに少なからずショックを受けていた。
段違いって。雲泥の差って―――そんなに違うの?
「ええ、大違いも大違い。弾力も何もかも。若いって本当に素晴らしいですよねー」
ダメ押しのように言う彼に、オレは咄嗟に言葉をつぐことが出来なかった。
だってさ、やっぱり歳には勝てないじゃん・・・?
予防とケアは出来ても、たとえ変化の術を使って一時的に若くなったとしても、本当に若返ることなんて誰にも出来ないんだから。
でも・・・でもオレ、アンタが好きだし!若いヤツになんて負けないくらい、否、そんなのメじゃないくらい好きだし!その為の自助努力も怠ってないし!ええと、それにオレには若いヤツにはない経験っていうスキルもあるんですけど!若さは経験で補えませんか、ねえ?!
肩を掴んだまま半分泣きの入った状態でそのようなことを必死に訴えていれば突然、彼がぶはっと噴出した。しかもそのまま腹を抱えて笑い出すではないか。

・・・いやもうなんか、すっげえ心外なんですけど?

あからさまにむすっと不機嫌な表情を作れば、彼は「すいません」と口にしながらも。
「いやもうなんていうか・・・アンタって本当、バカなんですね」
コレは謝られてるんだか、貶されてるんだか。ますます顔が顰まるのを感じていると、彼が取り為すように口を開く。
「オレは確かにきれいなケツは好きですけど、ああいうのは見るだけだからいい、というか。所詮、観賞用のケツなんですよね」
「観賞用?」
「そう。愛でて楽しむのみの、芸術としての価値はあるけど触って楽しむ為のモノじゃないんです。下手に触って形が崩れでもしたら取り返しがつかないし。それにまず、子供相手に手を出すワケがないでしょう。オレにはこうして実際に触れるいいケツがあるのに」
そう言って、尻を撫でられる。というか撫でくり回される。
「オレはこれで十分なんです」
―――なんか相当引っ掛かる言い方だけど。兎に角、他じゃなくてオレのがいいってこと?
「そうです、もっと自分に自信を持って下さいよ。こんなに形と触り心地だけじゃなく、アレの具合まで良いケツなんてオレ、他に知らないんですから」
さらり、と彼は言う。内容的にはかなり微妙だが、彼流でいくとこれも最高の褒め言葉、になるんだろうか。
それはまあいいんだけど。でも他に知らないっていうのは・・・オレ以外の尻の具合を知ってるってこと?!
「さあ、どうでしょう?」
はぐらかすように言う彼の手付きが徐々にいやらしくなってくるのを感じる。なんていうか、そういう気分になるように仕向ける触り方、っていうの?うう、エロい触り方してくれちゃって。うっかりヘンな気分になりそうだ。
でも、誤魔化されない。オレは誤魔化されないからな!
・・・などと思いながらも、既に場の空気に流されかけているのを感じる。ああ、オレってヤツはホントにどうしようもない。
「あー、カカシ先生のケツは最高だなぁ」
「うう、エロオヤジ・・・!」
「でも、キライじゃないでしょう?」
隠すことなくやらしい笑みを浮かべる彼に、悔しいかな、オレは何も言い返すことが出来ずにいた。
そもそもキライにはなれないんだ、この人のこと。
尻が好き過ぎるあまり、たとえ他の尻を只管目で追っていても、オレ自身を蔑ろにされても。
だってオレ、そういうこの人が好きで、それをわかった上で一緒に居るんだもん。
オレが諦め半分に思っている内に、いつしか、というか、あれよあれよの間、というか。
ま、美味しく頂かれちゃったワケなんですけど。屋外で、しかもなんか妙に燃えちゃったんですけど。
オレも最後の辺りは空気に呑まれてすっかりのせられたから、最早何の言い訳も出来ない。
抱かれる方にほぼ抵抗がなくなりつつあるのもどうなんだろう、と遠い目で思いながら、事が終ってすっかり満足げな彼の顔を眺めて。



・・・取り敢えず、他の尻に目がいかないようにこれからも色々頑張ろう。



そう、オレは固く心に誓うのだった。







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