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続いてゆく日々のために




五月十五日

最近、彼が愛読書である如何わしい本の代わりに読み耽っているもの。
『漢の料理百撰』だったり、『家事読本 玄人向』だったり、『お掃除大作戦!〜今度こそ家中ピッカピカ☆〜』だったり。
やる気満々なのは大変良いことだと思う。
但し。
「あ、畳敷きの部屋を掃除する時は、茶殻を撒いて箒で掃く方がいいんですよ。掃除機かけたら畳の目が痛んじゃうから」
なんていちいち言ってくるのがいただけない。
オレはそういったことにあまり頓着しない性質なので、取り敢えず部屋が綺麗になりさえすれば細かいことなんてどうだっていいのだけれど。
「んもー、適当なんだから!そんなんじゃダメですって。後、オレがやりますから座ってて下さい」
そう言ってオレの手から強引に掃除機を取り上げようとする。そんなことをされれば、こちらだって少し意地にもなるというもので。
「いいです。オレが途中までやったんだから、最後までやります」
「オレがやるって言ってるんだから、アンタは大人しく座ってればいいじゃない」
「だから、結構ですってば。オレが全部やるんですから」
そこから暫く、オレがやると双方譲らずの状態が続いた。勿論、オレから折れてやる気はさらさらない。掃除機もばっちり死守している。
彼の一方的な言い分が異様に鼻について仕方ない所為だ。
「・・・アンタ、少しはオレの言うことも聞きなさいよ!」
「嫌です!オレが何でもはいはいって従うと思ったら大間違いですからねっ!!」
「っ、イルカさんの意地っ張り!」
「なんですか、カカシさんのわからずや!おたんちんっ!!」
「ちょっと、おたんちんって何ですか、おたんちんって!」
「おたんちんだからおたんちんって言ってるんですっ!カカシさんのおたんちんっ!!!」
「あっ、また言った!」
とまあ、低レベルな言い争いで本気の喧嘩に発展しそうになることも度々あるんだけど。
でも、オレは知っている。
彼が最近読んでいる本の中に、点字に関するものや視覚障害を持つ人間の介助法、そして共に暮らす上での心構えを説いた内容のものが含まれていることを。この間、押入れの奥に他の物で隠すように置かれているのを偶然見つけたのだ。
こっそり読んでいるのは、多分オレを気遣ってのことなのだろう。
こういうところは彼らしい。
でもそれを見ると、オレのことをちゃんと考えてくれているんだなと思えて。
ほんのり温かい心持ちになっているのを、きっと彼は知らない。






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